日本の移民受け入れ拡大について

日本政府は来年(2019年)4月までに入管法の改正を目指しているようです。報道や国会中継、ソーシャルメディアなどでご存知の通りと思いますが、少子化に伴う労働力の低下への対策です。また、技能実習生制度は建前では国際協力の側面もあります。これはブローカーへの指導と違法行為や倫理規程違反が発覚した際の罰則を徹底することで、有益な制度になり得ると私は考えています。

日本の国際協力、特に発展途上国で行われる活動、は現地の人的資源への投資と言う性格が強いと言われます。つまり、箱物を作るにしても、現地の人が技術を学び、支援がなくともその技術を使えるように、またその技術を別の目的に応用し、経済的自立ができるように、「ただ与える」と言うものではありません。中国がアフリカの人々から反感を買っているのはここに理由があるでしょうね。中国の国際協力の場合、現地の人は置いてけぼりで、中国人を入植させ、中国人のビジネスが潤うような仕組みです。支援を受けた国は借金と役に立たないインフラ設備、そして中国人入植者を抱える羽目になるのですから、たまったものじゃないと思います。外交や国際協力は、一方が勝つような仕組みでは成り立たないでしょう。なので、技能実習生制度も人的投資が本当にできるのであれば、日本と様々な発展途上国の間に友好的な関係を築き、国際的な場面でそれらの国の政治的な協力を得ることが容易になり、日本だけでなく発展途上国も、強く、安定した労働力を獲得できるだろう、と考えます。

ただ、実際はそれほど簡単ではありませんね。人間は経済的、政治的な判断をするときに、いつも合理的であるとは限りません。心理的な問題もしっかり考察されるべきです。

言うまでもなく、移民と言うと、本来、単一民族、単一言語国家である日本の多元化、多文化化を意味します。社会心理学の分野でContact Hypothesis (Allport, 1954)と言う有名な仮説があります。ざっくり言えば、異なった文化の集団は実際の接点を持つことで、互いについて学ぶことになり、互いに対する偏見が軽減する、と言うものです。ただし、「ある特定の条件下で」と言うことは指摘しておかないと、この仮説をむやみな多文化共生主義の正当化に利用される懸念があります。その条件とは:

  1. 異なる文化集団が同等の地位や特徴を持つこと
  2. 異なる文化集団が共通の目標を持つこと
  3. 異なる文化集団が協力的な関係にあること
  4. 権力者、文化規範や法が多文化共生を支持すること
  5. 異なる文化集団の個人間での直接のやりとりがカジュアルであること
Contact HypothesisはPettigew and Tropp (2006)によるメタ分析によって証明(間違ってはいないということ)されていますが、問題は、「移民」として日本政府が受け入れようとしている人たちには、1.の条件を満たす人はまずいないだろう、と言うこと。現実的に見れば、5.以外は難しいだろう、と言うのが個人的な感想です。もっと最近の研究では、個人の過去の経験も異文化間の接触の結果に影響を及ぼす、と報告されています(Paolini et al., 2014)。これは当たり前だと思いますが…。つまり、Allportがあげた条件だけでなく、個人の経験もファクターの一つ、と言うことでしょうね。

移民問題と言うと、社会科学の分野ではとりわけ移民側の問題やその保護について取り上げられます。移民は困難な状況から逃れてきた「弱者」であり、「弱者は特別の保護を必要とする」と言う倫理的、法的観点で言えば、これは避けられないのでしょうが、受け入れ側からの論点が驚くほどかけています。その中でもHuman Development Report 2009 (UNDP, 2009)はこのように移民の現状をまとめています。
  • 多くの経済移民は、「被害者」とは程遠く、移民前・後とも経済的に成功するケースが多い
  • 発展途上国では、多くの場合、移民の子供の就学率の方が、現地の子供の就学率よりも良い
  • 世界的に見て、政治的理由で移民をするケースは非常に少なく、殆どの人口移動は経済移民である
  • 移民が新しい土地でのコミュニティに積極的に参加することで、順応が容易になる傾向がある
  • 移民を受け入れる側は、移民の流入を生活基盤や経済活動だけでなく、文化的継続性への脅威だと受け取る傾向が強い
  • 移民の受け入れ先での経済活動は、受け入れ先の経済活性化への可能性を持っている
  • 移民流入により犯罪率が増加することは少ない
  • 移民は長期的に見れば、自国への帰還か移民先への文化的統合が理想である
200ページ以上の報告書ですので、簡単にまとめるのは難しいのですが、今回のブログに関係あることを大まかに書くと、こう言うことです。これを読むと、受け入れ側のマインドを転換させるような取り組みがなくては、入管法の改正、移民の規制緩和はうまくいかないだろう、と考えます。また、この報告書は2009年に発行されていますから、現在のヨーロッパにおける中東からの移民の問題を考慮しておらず、また日本のデータを使ってはいますが、詳細な文化的、社会的、経済的な考察は含んでいないので、報告書の内容を日本のケース・スタディにそのまま使うことには注意を払わなくてはいけません。

これが何を意味するか、というと、この報告書には非常に異なった文化間、言語間での移民のケースが十分に考慮されておらず、現在の難民、移民問題への適用は不適切かもしれない、ということです。今後、もっと最近の報告書、データを読み込み、分析し、追ってブログに書きたいと思います。

政府が移民受け入れ拡大を目指すのなら、移民受け入れが日本国にとって、日本人にとって利点があることを証明し、普通の暮らしを続けたい普通の日本人から支持されるような取り組みをデザインできなければ、するべきではないと考えます。


参考文献
Allport, G. W. (1954). The nature of prejudice. Cambridge, MA: Perseus Books.

Paolini, S., Harwood, J., Rubin, M., Husnu, S., Joyce, N., & Hewstone, M. (2014). Positive and extensive intergroup contact in the past buffers against the disproportionate impact of negative contact in the present. European Journal of Social Psychology, 44, 548–562. doi:10.1002/ejsp.2029

Pettigrew, T. F., & Tropp, L. R. (2006). A meta-analytic test of intergroup contact theory. Journal of Personality and Social Psychology, 90(5), 751–783. doi:10.1037/0022-3514.90.5.751

UNDP. (2009). Human Development Report 2009: Overcoming barriers: Human mobility and development. Retrieved from http://hdr.undp.org/sites/default/files/reports/269/hdr_2009_en_complete.pdf

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